生成AIプロジェクト―キーマンに聞く③―

生成AIプロジェクトは、外部の専門家の力も借りながら進めています。プロジェクトの進め方や他社事例、さらには実際のプロンプト開発に至るまで、客観的な視点からも助言をいただいています。
その存在が、生成AIスペシャリストである「舞台AI(あい)」の小林洋実氏。小林氏は、リーダーの宮地が生成AIを本格的に進めるきっかけとなったキーパーソンであり、厚い信頼関係のもと、プロジェクトを力強く支えていただいています。


———当社の生成AIプロジェクトのことを聞いた時の印象はどうでしたか?

小林 宮地電機さんは業務の幅がすごく広いなというのが最初の印象でした。メインで電材営業部があり、住宅営業部や省エネルギー担当室もある。どこに効果的に活用できるか、正直最初から見えたわけではなかったです。

時間が掛かっている小さな業務がたくさんある

小林 宮地常務から「営業担当の時間外勤務を減らしたい」という思いを伺って、その中で「何が一番時間がかかっていますか」と聞くと、「電話対応が多い」ということでした。そこで、電話の自動応答とか、そういう仕組みも考えましたが、それにはお客様との関係性や売上などで影響が出そうだという話になって、一旦保留することにしました。

さらに話を聞くうちに「これが効く」という決定的なポイントがあるというより、時間が掛かっている小さな業務がたくさんある、ということに気付きました。紙を渡す、部門をまたいでやり取りする、といった細かいコミュニケーションに時間が取られている。
業務の意味や価値を残しながら、どこに手を入れるか、は結構考えました。

———これまでも話題に出たExcel突合について教えてください。

小林 パナソニックさんのExcel突合のエージェント作成は、比較的スムーズにできました。最初のプロンプト作成と動作確認にかかった時間はおそらく4〜5時間くらいだったと思います。項目が決まっていて、「何と何を突合するか」「数値が一緒か」「日付が何日以内か」といった条件が明確だったので、上から順に整理していったという感じです。ルールがはっきりしている業務は、AIに指示しやすい。「ルールと正解」を決めていって、そのままプロンプトに落としてゆく。そうやって作ると、かなりの精度になります。

「業務が分かっている人」が作る強さ

小林 そこで感じたのは、業務をよく分かっている人が作ると「強い」ということです。
実際、経営管理室の安東さんが改善したプロンプトを見たら、私のよりもシンプルで結果も良かった。条件を必要最小限に絞れている。現場の業務をわかっている方が、業務に合わせたプロンプトを作りAIを活用することの重要性を改めて感じました。

———苦労したことはなかったですか?

小林 カーテンを取り扱う仕入先さんのExcel突合エージェント作成は苦戦しました。実際2日くらいかかったのではないでしょうか…。理由は単純で、日付や金額とかの数値であればズレないんですけど、どうしても現場名などのテキストを照合しようとすると一気にハードルが上がって難しくなります。まさに「表記揺れ」の壁です。
例えば、「○○様自宅」と「○○様ご自宅」。人間が見たら同じですけど、AIに突合させると「違います」と言われる。そこで、「これは同じとして扱ってほしい」と指示しても次は、「自宅」と「ご自宅」は違うという回答が返ってくる(笑)。

これを解決しようとすると、どんどん条件が増えてゆく。条件を増やせばよいという話でもないんです。人には同じ、でもAIには違うんですよね。

そこで考えたのが、「この項目を比較する必要が本当にあるのか」という目線。これがキー項目だと思っていたのですが、一旦、日本語の項目は外して、日付と金額だけに割り切る。そうすれば、例えば複数行にマッチするケースも出てきてしまいます。そうなれば人間の出番。「こういう時には人が見て判断ください」という運用を仕組化する。

業務理解がそのまま精度になる

小林 AIを活用する際に重要なのは、人間が暗黙的に行っている判断や前提を分解し、AIが実行可能な形に再構成することです。
人間は無意識のうちに、「見なくてよい部分」「重要な部分」などを判断しています。感覚や経験値のようなものです。その暗黙知判断を言語化して条件に落とせるかどうか。そもそもAIにどんな業務を任せるのか。それを考えて実行できる人はAIをうまく使えると思います。だから、うまくいかない時でもAIが悪いというより、「業務の前提が整理できていない」ことが多い。
また、時には、既存の業務フローからガラッとやり方を変える柔軟さも必要です。これは業務を理解している人が関わって、業務の目的や必須で抑えるべきポイント、変えても良いプロセスを明確にし、結果を適切に評価できる状態を作ることで、AIを活用した業務の精度は一気に上がります。これは今回のプロジェクトではっきり見えた点だと思っています。

———専門家からみて、AIはどう進化すると思いますか?

小林 きっと今見えている常識を超えた、想像以上の存在になると思います。進化のスピードは、かなり速い。最近だと、ブラウザを操作したり、メールを自動で送ったり、いわゆる「AI社員」みたいなものも現実的になってきています。皆さん同じですが、AIの存在を知って、ChatGPTとかに質問して答えが返ってくる、というレベルから始まります。その次は、作業を指示してやってもらう。さらに進むと、相談役として使う、複数の業務をまとめて任せる、という段階に入ってゆく。
だから、「AIは指示に従って動く部下」と考えるだけだと、すごくもったいない。最終的な判断をさせてはいけないけれど、相談役とか、補助役とか、別の何かとか、もっと広い位置づけで考えることが大事と思います。

ワクワク感が原動力

AIを活用するうえで重要なスキルは?と聞かれることがありますが、一番大事なのは「好奇心」だと考えています。「AIで何ができるんですか?」と考える前に、まずAIに聞いてみる。「これ、AIに任せたらどうなるんだろう?」と思って試してみる。そのワクワク感が、一番の原動力になります。難しく考えない事。AIの答えが「使えるかどうか」は、人が判断すればいい。最初から正しい使い方をしようとしなくていいと思っています。
あと、「最初から成功しなきゃいけない」があると、AI活用は進まないと思います。やってみて、「これはうまくいかなかった」「思ったより精度が出なかった」それはそれでいい。「じゃあ次どうする?」という話ができればそれは前進です。
チームの中で、「できなかったらダメ」という雰囲気があると、誰も触らなくなる。「ちょっと一緒にやってみよう」「それならこうしたらどう?」という前向きで軽い空気感があると、自然と使われるようになる。これは、AIに限らず新しいチャレンジや変化が起こる時には必要なことだと思います。

———企業への生成AIの活用が進まない理由は?

小林 よく聞くのが、「AIって間違うでしょう」「人が確認しないといけないなら意味がない」という話です。それを言い始めると、何も進まなくなります。AIが出した結果を人が確認する前提で使うという割り切りができないと、導入は進まないと思います。

小さな成功体験を積み上げる

結局のところ、「これ楽になったよね」という小さな成功体験が大事だと思います。一度、小さな成功体験があると、「じゃあ次はこれもできるかもしれない」という話になる。AIの活用って、そういう積み重ねだと思うんです。

———逆に、進みやすい企業の特徴は?

小林 二つあると思います。
一つは、年間でしっかり予算を確保していることです。単発の研修だけで「あとは現場で頑張ってください」では、なかなか定着しません。知識を学び、実務に落とし込み、結果を振り返って改善する——このサイクルを回すには、一定の期間と予算がどうしても必要です。知識を学ぶこと自体はYouTubeや資料でいくらでもできますが、それを業務に活かせるかどうかは別の話。年間でやり切ると決めて予算を取っている企業は、結果的に定着が進みやすいと感じます。

もう一つは「外部任せにしない」ことです。宮地電機さんのように、中枢に近い人が実際に関わって社内に発信し、現場と一緒に悩む姿勢がある企業は、本気度が全然違います。「どうしたら現場で使えるか」を社内側で考えられる企業は、着実に進んでゆくと思います。

上から目線に聞こえたら申し訳ないのですが、宮地電機さんはその両方が揃っていると感じます。だからこそ、きっと進んでゆけると思います。

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